2024年、ヤマハは苦戦したまま終わったのか。クアルタラロの最終戦後の評価に見る

2024年は、ヤマハにとって、ひたすらに苦しいシーズンだったのだろうか。
伊藤英里_Eri Ito 2024.12.26
誰でも

2024年は、ヤマハにとって、ひたすらに苦しいシーズンだったのだろうか。

確かに、優勝も表彰台も獲得することはできなかった。コンストラクターズランキングは、5メーカー中4位(最下位はホンダだ)。チームランキングとしても、モンスターエナジー・ヤマハMotoGPチームは11チーム中8位だった。端的に言えば、ドゥカティはもちろん、KTMにもアプリリアにも一矢を報いることができなかった。コンストラクターズランキング3位のアプリリアに、178ポイントもの差を開けられていることもまた、それを示している。

果たして、ヤマハはまだ苦戦の渦中にいるのだろうか? 一筋の光も見えないような、暗澹たる状況なのか?

その答えは、「イエス」ではないのかもしれない。そう思わされたのは、日本GPである。

ファビオ・クアルタラロとアレックス・リンスへ取材の機会があったとき、クアルタラロがこう言っていたのがひどく印象的だった。

「ヤマハの日本人エンジニアは、少しずつマックス(マッシモ・バルトリーニ。2024年からヤマハ・ファクトリー・レーシングのテクニカル・ディレクターを務める)やマルコ(・ニコトラ。同じく2024年にドゥカティからヤマハに移籍したエンジニア)たちを信頼していって、ヨーロッパメーカーから来たエンジニアたちと信頼関係が築かれつつあると思う」

「彼らはプロセスを加速させるのに貢献している。例えば、ある変更を一日で行うことができるようになった。以前なら決定に2か月かかっていたこともあるんだ。これがチームにとって最大の改善点だったと思うよ」

「つまり、最大の改善点は、プロセスが非常に速くなった、ということなんだ。僕たちは多くのものを試してきたし、多くのエンジンやシャシーを試してきた。決断が非常に迅速になったんだ」

これに、2024年にホンダからヤマハに移籍してきたリンスも続けた。

「バイクとしては、(2023年)11月のバレンシアテストで乗ったバイクと比べると、かなり変わったと思うよ。エアロダイナミクスや、シャシー構成がね」

「ファビオが言っていたように、僕がスズキやホンダにいたとき、全てが少し、遅かった。フェアリングが来るのも遅ければ、シャシーは時間がかかる……」

「でも、サンマリノGPから日本GPまで、ヤマハは三つの異なるシャシーを投入した。今回ここに持ってきたのは4つ目のシャシーなんだ。彼らはすごく頑張って取り組んでいると思う」

なにしろ、追いかけているのは、前進し続けている存在(ドゥカティ)だ。彼らに追いつき、そして追い越したいのなら、さらに速度を上げるしかない。この日進月歩のMotoGPの世界にあって、それはどれほど難しいことだろう。

しかし、光の片鱗は確かに見えていた。マレーシアGPの決勝レースでは、クアルタラロが6位、リンスが8位を獲得している。ともに、決勝レースにおける今季の自己ベストリザルトである。

最終戦の決勝レース後の囲み取材で、クアルタラロにこう尋ねた。「シーズン序盤からのマシンの進歩をどう評価しますか?」と。

2021年のチャンピオンは彼の左脇に立った私を振り返って、「もちろん、もう少し速さを期待していた」と答える。しかし、こうも続けた。

「でも、シーズン前半は、バイクの改善以上に取り組み方が変わったんだ。僕にとっては、それがとても重要だった。メンタリティの変化がね。あるエンジンが機能すれば、次のレースですぐに投入される。待つ必要はなかった。機能したら、すぐに投入されたんだ。シーズン後半は、大きなステップを踏むことができたと思う。特に、電子制御の面だね」

続けて問われた別のジャーナリストからの質問には、「グリップとパワーを改善しなければならない」としつつも、こう答えている。

「僕たちは今年、変わった。これは来年も続くだろう。僕たちは小さな一歩を踏み出したと感じているんだ」と。

もう一人、キー・パーソンの話をピックアップしたい。ヤマハ・ファクトリー・レーシングのテクニカル・ディレクター、マッシモ・バルトリーニである。ソリダリティGPの木曜日、私は彼にインタビューをしたのだ。

初対面にもかかわらず、彼は非常ににこやかに、真摯にインタビューに応じてくれた。社交的な雰囲気もまた、印象的だった。正直なところ、MotoGPの取材では、礼儀正しく対応してくれても、その人との間に分厚い壁が立ちはだかっている、と感じることも多々ある。──誤解を生まないよう付け加えると、それに対して批判しているわけではない。初対面の人間に最初から心を開ける人はまれだし、特にこうした「伝える仕事」の人間には、そうそうオープンにはならないものだ。だから、むしろバルトリーニのオープンともいえる態度に、少しばかり驚いた。同時に、その人柄に「彼はすでに、ヤマハにとって大きな存在なのかもしれない」とも感じたのである。

そして彼もまた、こう言っていた。

「ヤマハについては、仕事のやり方を少し変えたり、システムをスピードアップする必要があると思います。でも、今のところ、ネガティブなことはありません。スピードアップしなければならないと理解して、ヤマハは今、とてもスピードアップを始めていると思いますよ」

たった20分のインタビューだったが、バルトリーニの人柄に魅せられてしまった©Eri Ito

たった20分のインタビューだったが、バルトリーニの人柄に魅せられてしまった©Eri Ito

冒頭の質問に戻ろう。「2024年は、ヤマハにとって、ひたすらに苦しいシーズンだったのだろうか」。

答えは、「イエスであり、ノー」だ。

クアルタラロ、リンス、バルトリーニの話を総合すると、ヤマハは変わろうとしているのだ、と感じる。そしてそれが、結果に結びつきつつあるシーズンだったのだ、とも。

―――――――――――――――――――――――

おまけの話。

バルトリーニのインタビューはヤマハのホスピタリティで行われたのだが、そのとき、ちょうどプラマック・レーシングのチーム代表、パオロ・カンピノーティがいて、インタビューを受けているバルトリーニに、遠くのテーブルから「おおい、なにやってんだよ」というように声をかけていた。

イタリア語だったので全くわからなかったけど。

そして、やっぱりインタビュー中のバルトリーニに肩を叩いてホスピタリティを出て行った。

バルトリーニ曰く、「彼とは長いこと一緒に働いてきて、すごくいい友人なんですよ」とのこと。

プラマックが2025年、ヤマハのサテライトチームになることになった要因に、その関係性が(例え小さくとも)あったのだろうか。

非常に気になったが、時間切れでインタビューでは聞けなかった。

いつか確認したいなあ、と思っている。

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