MotoGPの“裏側”を訪ねて|トラックハウスのホスピタリティに潜入。小椋藍の好きなホスピ飯とは…?

MotoGPイギリスGPで取材した、トラックハウスのホスピタリティの話。ホスピタリティとは? 小椋藍はホスピでどんな食事をしている? ホスピではどんな食事が提供される? などなどMotoGPの裏側に迫る記事です。
伊藤英里_Eri Ito 2025.06.13
誰でも

MotoGP第7戦イギリスGPで、トラックハウス・MotoGP・チームのホスピタリティを取材した模様をお届けする。所属ライダーの小椋藍、そしてホスピタリティのシェフを務めるマッテオ・カナーレさんにインタビューも行った。

ホスピタリティとはMotoGPのレースウイーク中、パドックに建てられる、各メーカー、チームの施設のこと。レースウイーク中には、チームのスタッフやライダーが食事をしたり、ミーティングをしたり、ゲストを迎えるのに使用される。一見すると建物のようだが、全て移動式。レースが終われば解体されて、次のサーキットへ向かうのである。

  ホスピタリティの外観。2台のトレーラーをつなぐ形で建てられている。トレーラーの1台はクルーが寝泊まりできるようになっており、もう1台はミーティングルームとキッチン©Eri Ito

  ホスピタリティの外観。2台のトレーラーをつなぐ形で建てられている。トレーラーの1台はクルーが寝泊まりできるようになっており、もう1台はミーティングルームとキッチン©Eri Ito

  ピットの前に配置されたチームのトラック。奥がピットになる©Eri Ito

  ピットの前に配置されたチームのトラック。奥がピットになる©Eri Ito

シルバーストン・サーキットのパドック。右手がピットで、左手がホスピタリティという並び©Eri Ito

シルバーストン・サーキットのパドック。右手がピットで、左手がホスピタリティという並び©Eri Ito

小椋藍が所属するトラックハウス・MotoGP・チームのホスピタリティは、2階建て仕様である(ちなみに、1階建て、3階建てのホスピタリティもある)。取材に訪れたときはちょうど木曜日のランチタイムだったので、入って左側と右側それぞれにランチ──パスタに野菜、肉料理が十数種類並んでいた。ホスピタリティのメニューは、イタリアンが主流である。

左手のテーブルにはラウル・フェルナンデスと彼のクルーが食事をとり、右手のテーブルには小椋のクルーが座っていた。小椋のチームの場合は、ランチやディナーはクルーとともにするのが常なのだそうだ。

少しあとにやってきた小椋も、お皿を片手に料理をとっていき、クルーチーフのジョバンニ・マッタロッロの隣に座る。ランチタイムらしく、小椋もリラックスした様子でクルーと談笑していた。

といっても、この日は木曜日だったのでリラックスした雰囲気だったが、走行が始まる金曜日以降はまた違った空気が流れるのかもしれない。

小椋はレースウイークにどんな食事をとっているのか。食事制限はあるのか。MotoGPライダーの「ごはん事情」に迫るべく、小椋に話を聞いた。

  トラックハウスのホスピタリティは2階建て。左手の階段から2階に上がるようになっている©Eri Ito

  トラックハウスのホスピタリティは2階建て。左手の階段から2階に上がるようになっている©Eri Ito

レストラン並みにしっかりテーブルセットされている©Eri Ito

レストラン並みにしっかりテーブルセットされている©Eri Ito

入口の横にはカフェがある。これはどのホスピタリティもある。コーヒーは朝にいちばん飲まれるそう©Eri Ito

入口の横にはカフェがある。これはどのホスピタリティもある。コーヒーは朝にいちばん飲まれるそう©Eri Ito

ホスピタリティでは、もちろん温かい食事が提供されている©Eri Ito

ホスピタリティでは、もちろん温かい食事が提供されている©Eri Ito

冷製オードブルや温野菜などが並ぶ©Eri Ito

冷製オードブルや温野菜などが並ぶ©Eri Ito

この日のパスタはトマトソースとペペロンチーノらしきもの。お相伴に預かったのだが、トマトソースのパスタが絶品だった©Eri Ito

この日のパスタはトマトソースとペペロンチーノらしきもの。お相伴に預かったのだが、トマトソースのパスタが絶品だった©Eri Ito

クルーが飽きないよう、パスタも常に2種類の味が用意されている©Eri Ito

クルーが飽きないよう、パスタも常に2種類の味が用意されている©Eri Ito

インタビュー1:小椋藍の「ごはん事情」

Q.

食事制限をしていますか?

小椋藍:

僕はしていないですね。好きなものを、好きな量食べています。栄養士についてもらったこともないです。困ったことがないんだと思いますね。困ったことがあったら、そういうことも考えたと思うから。

メニューを考えて食べることもないです。ほんとに普通に食べてます。例えばケーキがぽんと(ホスピタリティなどに)置いてあって、もし自分が食べたいな、と思えば食べますし。それで体重はずっと変わらないです。

Q.

ホスピタリティのメニューでお気に入りは何ですか?

小椋:

パスタはやっぱりおいしいですね。パスタはメインですから、必ず2種類あるんです。でも、なんでもおいしいですよ。

僕は、けっこうわかりやすいものが好きなんです。日本でもよく食べられるような、ペペロンチーノとかボロネーゼとか、カルボナーラとか、そういうのがあると、「うれしいな」と思ってとって食べてますね。わかりやすいごはんが好きなんだと思います。

Q.

好き嫌いはありますか?

小椋:

あります、あります! 僕はね、きのこがダメなんですよ……。食べられなくはないんですけど、好んでは食べないです。あと、にんじんも好んでは食べないです。だから、きのこ系のパスタは食べません(笑)。

それ以外のものは、だいたい好きですね。野菜も食べたければ取るし、そうでもないんだったら食べないです。

Q.

お酒は飲みます?

小椋:

お酒が好きというわけではないので、一人で飲むのは本っ当にごくたまにしかないんですけど。お酒は、飲みたいから、というよりも、その場の感じで飲むかどうが決まっていきますね。

だから、お酒に関しても「我慢しなきゃ」といったことは全くないです。

Q.

レースウイーク以外のとき、自炊はしますか?(※小椋はスペイン・バルセロナを拠点としている)

小椋:

お米を炊いて何かと一緒に食べるくらいですね。たいしたものは作れないけど、日本食っぽいものを頑張って作って食べてます。

野菜炒めとか炒め物が多いと思います。冷蔵庫にあるものを炒めてごはんと一緒に食べる、そんなおおざっぱな料理ですね。僕は人よりいいレストランに行っていいものを食べたいと思うほうじゃないと思うので、自分で作ったもので満足してますね。

Q.

レース前やセッション前は、どういうタイミングで食事をとるのですか?

小椋:

食べてから走行まで、できるだけ時間を空けたいので、朝はそれほど食べないです。コーヒーと、バナナ1本とかですね。

その状態で午前の走行に行って、午前の走行が終わったらできるだけ早くお昼を食べて、午後のセッションを迎える、という感じです。オートバイにはできるだけ空腹の状態で乗りたいんです。

決勝レース前もランチを早めに、それも、けっこう少なめに食べます。お腹がいっぱいだと集中しづらい気がするんです。(決勝レースの)40分くらいなら、それでエネルギー切れすることはないですね。空腹の状態でオートバイに乗っても、僕は大丈夫です。

「ふう」って落ち着いてしまうほうが、僕はいやなんです。生き物だから、空腹時のほうが集中できるんじゃないかな。詳しいことはわからないけど……。食に関することだと、それくらいですかね。オートバイに乗るときに「どれだけ食べるか」は気にしますけど、「何を食べるか」というのは気にしないんですよ。

小椋はこの日のランチに何を食べる……? 特に食事制限などはしていないそうだ©Eri Ito

小椋はこの日のランチに何を食べる……? 特に食事制限などはしていないそうだ©Eri Ito

小椋の左に座るのがクルーチーフのジョバンニ・マッタロッロ。「ピットではレースの話しかしないし、張り詰めた緊張感のある場所なので、ランチのときは『ライダー』とか『クルーチーフ』とか『メカニック』から離れて、友達として話しているような感じです」と小椋©Eri Ito

小椋の左に座るのがクルーチーフのジョバンニ・マッタロッロ。「ピットではレースの話しかしないし、張り詰めた緊張感のある場所なので、ランチのときは『ライダー』とか『クルーチーフ』とか『メカニック』から離れて、友達として話しているような感じです」と小椋©Eri Ito

続けてお届けするのは、トラックハウスのホスピタリティの食事を作るシェフ、マッテオ・カナーレさんのインタビューである。

じつは、カナーレさんは当初、軍人を目指していたという。しかし父親に「料理学校に1年通ってみて、それで気に入らなければ軍に行けばいい」と言われた結果、シェフになったのだそう。イタリアンやヨーロッパのミシュラン一つ星、二つ星、五つ星のホテルで働いたあと、MotoGPのパドックで2010年から働き、現在に至る。

インタビュー2:トラックハウスのホスピタリティ シェフ、マッテオ・カナーレさん

Q.

小椋藍から何か食事についてリクエストはありましたか?

マッテオ・カナーレ:

いいえ。僕のキャリアのなかでも、最も要望の少ないライダーですね。彼は何も要求しないんです、全く! (前戦までの)6戦で、一度、「チキン・ライス」を要望してきただけです。彼は「チキン・ライス」が好きなんですね。びっくりですよ。普通は要望があるんです。ライダーは特別なダイエットをしているし、アレルギーなどもありますからね。

Q.

ホスピタリティの料理は、イタリアンが多いのですか?

カナーレ:

食事の多くはイタリアンまたはヨーロピアンですね。でもわたしはミックスするのが好きなので、アジア料理も作りますよ。チャーハンやナシゴレン、チキンカレーなど……。アジアの食事が大好きなんです。メカニックも好きなんですよ。飽きないですからね。食事が変われば味も変わります。毎日飽きがこないんです。

Q.

日本の食事も作りますか?

カナーレ:

もちろん。うどんは好きですね。それから、ギョーザ(※ルーツとしては日本食ではないが、日本食として定着しているようだ。ちなみに、ヨーロッパでは冷凍ギョーザもよく見かける)。時間があるときは、すしや巻きずし、タタキ、刺身も作ります。

Q.

メニューはどうやって決めるのですか?

カナーレ:

例えば、金曜日には次のレースに向けたフードリストを送ります。だいたい(そのレースウイークの)10日前ですね。全ての在庫を確認して準備する時間が必要ですから。

食材リストができあがると、何ができるかを考えて決めて、メニューを書き出します。そして食材リストを持ってここに来て、毎日メニューを完成させています。

例えば、今はイギリスにいるので、イギリス料理を作ります。シェパーズパイとか、他にもいろいろ。スペインに行けば、アジア料理、イタリア料理、スペイン料理をミックスします。ドイツでもオーストリアでも、ヨーロッパ各地でそんな風に組み合わせています。ずっとこうして作るのが自分には合っています。飽きないし、それがいいんです。

Q.

毎食、料理を何品作るのですか?

カナーレ:

いつもはパスタ2種類。肉料理が2種類──ビーフとチキンやビーフとポーク、あと魚などです。野菜料理も2種類。あとは、チーズ、ハム、カプレーゼ、モッツァレラのようなコールドプレート(冷製盛り合わせ)。10~15種類でしょうか。レースウイークの初日は少なめですが、その後はゲストを迎えるので、多くなりますね。

Q.

あなたの得意料理は?

カナーレ:

僕じゃなくてみんなが言うには、アジア料理がうまいんだそうです。でも僕は、チキンカレーが得意ですね。シンプルに見えるけど、シンプルではないんですよ!

トラックハウスのシェフを務めるマッテオ・カナーレさん©Trackhouse Racing

トラックハウスのシェフを務めるマッテオ・カナーレさん©Trackhouse Racing

このキッチンは、トレーラー内にある。設備がすごい!©Trackhouse Racing

このキッチンは、トレーラー内にある。設備がすごい!©Trackhouse Racing

ホスピタリティでもまた、MotoGPライダーやチームスタッフの健康と元気を支える、プロフェッショナルが活躍している。これもまた、現在のMotoGPを象徴する一つだろう。

©Eri Ito

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