電動バイクレースMotoE|ドゥカティV21Lは重い? それとも……。EWC参戦ライダーが感じる車両重量216.2㎏

電動バイクレースMotoEのワンメイクマシン、ドゥカティV21Lは今季、約9㎏軽量化されました。現状のMotoEマシンの車両重量を、ライダーはどう感じているのか、MotoEオーストリア大会で取材しました。
伊藤英里 2025.09.02
誰でも

2019年からスタートした電動バイクレースMotoEは、2025年で7シーズン目を迎えた。

マシンは年々軽量化され、2019年の260㎏から2025年には216.2㎏となった。

この車両重量のバイクによるレースについて、ライダーはどう感じているのだろうか。

EWCに参戦経験のある二人のMotoEライダーに話を聞いた。

2019年から2025年までに車両重量を40㎏以上軽量化

電動バイクレースFIM MotoE World Championship(以下、MotoE)は、2019年から始まった電動バイクによって争われるチャンピオンシップだ。2025年で7シーズン目を迎えている。

ドゥカティの電動レーサー、V21Lのワンメイクレースであり、参戦する全18名のライダーはV21Lを走らせて戦う。電動のオンロードバイクといえば車両重量が重いものが多いが、MotoEマシンも然りである。今回は、オーストリア大会で二人のライダーに現在のMotoEマシンや車両重量について話を聞いた。

その前に、MotoEについておおまかに説明したい。2019年に始まったMotoEは、2019年から2022年まではイタリアのエネルジカ・モーターカンパニーの市販電動バイクをベースにした、エゴ・コルサのワンメイクだった。2023年からワンメイクマシンサプライヤーがドゥカティになり、2025年現在は、ドゥカティがMotoEのために開発した電動レーサー、V21Lが供給されている。

タイヤはミシュランのワンメイクだ。サスティナブル素材が使用されたタイヤで、2025年のタイヤにはフロントが58%、リアが56%のサスティナブル素材が使用されている。

ヨーロッパで開催されるMotoGPに併催され、2025年シーズンは全7戦14レース(1戦2レース開催)が予定されている。レースの周回数は7~8周。MotoEは電費をマネジメントするレースではなく、ライダーがスタートからゴールまで全力で攻めて争うことができる周回数が設定されている。

さて、MotoEマシンの車両重量の変遷について確認していこう。

初年度の2019年、エゴ・コルサの車両重量は、260kgだった。そして、エゴ・コルサの最終年となった2022年には、247kgにまで軽量化された。2023年からマシンサプライヤーとなったドゥカティのV21Lは、車両重量225kgでデビューした。

このチャンピオンシップをプロモートするドルナ・スポーツによる要望の一つが、「軽量化」だったからだ。そして、2025年は、バッテリーパックが進化して8.2kg軽くなり、リアホイールからハブダンパーを取り除くことなどで、216.2kgを実現した。

車両重量が軽くなることは、ライダーのライディングはもちろんだが、安全面にとっても重要である。MotoEのエグゼクティブ・ディレクター、ニコラ・グベールさんはこのように説明していた。

「まずは200kgくらいのバイクを作りましょう、というのがターゲットでした。転倒すると、マーシャルがバイクを運び出します。しかし、バイクが重いとすごく時間がかかるのです。バルセロナのテストでは、転倒したバイクをマーシャルが運べなかったことがありました。そのときはマーシャルの人数が少なかったのもありますけどね。ですから、車両重量200kgが最初のターゲットだったのです」

  2025年型のV21L。タイヤにブロック模様がついているのは、「サスティナブル素材のタイヤ」であることをわかりやすくするため。性能に影響はしない©Eri Ito

  2025年型のV21L。タイヤにブロック模様がついているのは、「サスティナブル素材のタイヤ」であることをわかりやすくするため。性能に影響はしない©Eri Ito

MotoEのピットが集まるEパドック©Eri Ito

MotoEのピットが集まるEパドック©Eri Ito

EWCに参戦したライダー二人の見解

それでは、ライダーたちはこの車両重量をどのように感じているのだろうか。

オーストリア大会で、2020年、2021年のMotoEチャンピオンであるジョルディ・トーレスと初代チャンピオンであるマッテオ・フェラーリに話を聞いた。ともに、MotoEの参戦歴が長く、また、2025年に排気量1000㏄市販車ベースのスーパースポーツで争われる耐久レース、FIM世界耐久選手権(以下、EWC)のスーパーストッククラス(以下、SST)に参戦したライダーである。

2025年の「FIM ENDURANCE WORLD CHAMPIONSHIP, CUP AND TROPHY REGULATIONS」(EWCのレギュレーション)を確認すると、SSTの最低車両重量は170㎏(ドゥカティ パニガーレV4は総重量176kg)と定められている。ただし、これは車載燃料などを除いた重量である。燃料タンクは最大容量24リットルなので、フルタンクのときは200㎏近い車両重量となる計算になる。

トーレスは、鈴鹿8時間耐久ロードレースに参戦した。チームはWójcik Racing Team #777 SST、バイクはホンダのCBR1000RR-Rだった。

ジョルディ・トーレス(#81)はMotoE参戦6年目©2025 Aspar Team

ジョルディ・トーレス(#81)はMotoE参戦6年目©2025 Aspar Team

初めて参戦した鈴鹿8耐はとんでもなく暑かったそうで、「もう、灼熱だよ! 僕の人生で一番ハードなレースだったと思う……本当だよ! ヘルメットの中が暑すぎて呼吸するのも大変だったし、1回のスティントにつき25~26周くらい走るから、完走するのは本当にきつい。でも、すごく楽しかった。本当にたくさんの人がいて、素晴らしいイベントだったよ。最後にはやっぱり大きなイベントなんだって実感したんだ」と、いつものトーレスらしくユーモラスに語った。

そして、MotoEマシンについてはこのように説明している。

「このバイクは、市販バイクよりもMotoGPに近いんだ。ドゥカティが素晴らしい仕事をしてくれたからね。これだけの重量でも、バイクの信頼性は高くて扱いやすいよ。唯一難しいところは、ブレーキングポイント。フロントフォークやフロントタイヤにすごく大きな力をかけるから、バイクを止めるのは市販バイクほど簡単じゃない。これが普通のバイクと電動バイクの一番の違いだと思う」

「でも、MotoEのバイクにはギアもクラッチも音もないから、ライン取りやブレーキングポイントに集中するのがずっと楽だよ」

「このバイクはかなり重量があって、よりアグレッシブに走らなきゃいけない。方向を変えるときや倒し込むときも、バイクを押し込んで持っていかないと曲がらない」

「一番大事なのは、慣性がないってことなんだ。エンジンバイクはたくさんの慣性があって、それがあるおかげで走らせやすい。でもMotoEはバッテリーとモーターだから、動きはあるけど慣性を生み出さない。だからコーナーに入って、倒し込んで、リーンするのが難しいんだ」

一方のフェラーリは、ル・マン24時間耐久ロードレースとスパ・フランコルシャン8時間耐久ロードレースに、Aviobike WRSからドゥカティのパニガーレV4で参戦した。フェラーリは、2025年のMotoEマシンの重さに好意的だ。

フェラーリは2019年の初年度からMotoEに参戦している©Gresini Racing

フェラーリは2019年の初年度からMotoEに参戦している©Gresini Racing

「EWCバイク(SST)はフルタンクで24リットルだ。僕たちはドゥカティのストックバイクでレースをしたんだけど、車両重量はこのバイク(MotoEマシン)にかなり近いよ。正確な重量はわからないけど、満タンにしたときはこのバイクとほとんど同じなんだ」

「もちろん、(EWCの)レースでは燃料を使うので、最後には軽くなっているけどね。でも、全体として、フィーリングはそこまで変わらない。このMotoEマシンはすごくすごくバランスがいいんだ。燃料(バッテリー)を使っても、レース中ずっと重さが変わらないからね」

「(今の)MotoEマシンが重いとは思わないな。あと15キロくらい軽量化して200㎏になればベストだと思うけど、考えてみれば、このバイクはまだ3年目なんだからね。バイクをまだまだ大きく開発していけると思うよ」

「僕の意見としては、この車両重量(216.2㎏)は許容範囲内だよ。もちろん、軽くなればもっといいけど、最初の2、3年のような大きな問題じゃないね」

それぞれの意見はあれど、少なくとも現状のMotoEマシンの車両重量を「許容範囲」だと考えるライダーがいる。これは、確かな前進だ。

軽量化は目に見える変化ではないが、それでもテクノロジーの進化を意味しており、レースの安全性とよりエキサイティングなバトルにつながっている。電動バイクのロードレースにおける進化もまた、そこに含まれている。

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