MotoGPの“裏側”を訪ねて|ヤマハのホスピタリティ内部へ。クアルタラロはリラックスのために「アイスクリーム」を食べる

オーストリアGPで取材した、ヤマハのホスピタリティの内部やライダーの食事事情をお届けする記事です。
伊藤英里 2025.08.23
誰でも

MotoGPの現場から、普段はなかなか見られない部分をお届けする「MotoGPの“裏側”を訪ねて」シリーズ。第4弾はヤマハのホスピタリティをご紹介する。

2016年に導入されたヤマハのホスピタリティ

ホスピタリティとは、MotoGPのレースウイーク中にパドックに建てられる、各メーカーやチームの簡易施設のことである。レースウイーク中、チームのスタッフやライダーが食事をしたり、ミーティングをしたり、ゲストを迎えるのに使用される。一見すると立派な建物のようだが、すべて移動式だ。レースが終われば解体されて、次のサーキットへ向かい、またそのサーキットで設営される。

ヨーロッパは陸続きなので、ホスピタリティも転戦する。日本GPのようなフライアウェイでもホスピタリティ自体はあるけれど、ヨーロッパで見られる豪華なホスピタリティは、ヨーロッパで開催されるMotoGPならではのものだ。

今回は、オーストリアGPでヤマハのホスピタリティを取材し、ファビオ・クアルタラロとアレックス・リンスの両ライダーにも彼らの食事事情を聞いた。

ヤマハのホスピタリティは1階建てである。ホスピタリティといっても各メーカー、チームそれぞれに違っていて、2階建てのホスピタリティもあれば3階建て(!)のホスピタリティもある。現在のヤマハのホスピタリティは2016年に導入されたものということだ。

ヤマハのホスピタリティ©Eri Ito

ヤマハのホスピタリティ©Eri Ito

中に入ると、カフェカウンターがある。コーヒーなどのドリンクサービスをするこうしたカウンターは、だいたいどのホスピタリティにもしつらえられている。中央には食事を並べるためのテーブルがある。その周りにきちんとセットされたテーブルと椅子がきっちりと並べられ、そのうちの二つには「20」と「42」のロゴが置かれたテーブルがある。クアルタラロとリンスが食事をするテーブルである。

ライダーはクアルタラロとリンスだけではなく、プリマ・プラマック・ヤマハMotoGPのジャック・ミラー、ミゲール・オリベイラ、Moto2クラス(BLU CRUプラマック・ヤマハMoto2)のトニー・アルボリーノ、イザン・ゲバラ、テストライダーのアンドレア・ドヴィツィオーゾ、アウグスト・フェルナンデスも利用する。レースウイークは彼ら8名のライダーがヤマハのホスピタリティで食事をするということだ。

以前はホスピタリティで囲み取材を行うチームもあった。ヤマハもその一つで、バレンティーノ・ロッシの囲み取材もこのホスピタリティ内で行われていて、テーブルと椅子がセットされ、さながら小さな会見場のようだった。現在では、囲み取材はメディアセンターやプレスカンファレンス・ルームなどに集約されている。

ホスピタリティについての詳細は、ヤマハ・モーター・レーシング マーケティング&コミュニケーション部門マネージャー、ウィリアム・ファーヴェロさんに話を聞いたので、最後まで読んでいただければ幸いだ。

  木曜日のランチのラインアップ©Eri Ito

  木曜日のランチのラインアップ©Eri Ito

  温かい食事が食べられるのは移動の多いMotoGPライダーたちにうれしいはず©Eri Ito

  温かい食事が食べられるのは移動の多いMotoGPライダーたちにうれしいはず©Eri Ito

  提供後も料理が冷めないように温められている©Eri Ito

  提供後も料理が冷めないように温められている©Eri Ito

  生ハムも種類が豊富©Eri Ito

  生ハムも種類が豊富©Eri Ito

  野菜もたっぷり©Eri Ito

  野菜もたっぷり©Eri Ito

調味料もそろえられている©Eri Ito

調味料もそろえられている©Eri Ito

Q&A:ファビオ・クアルタラロとアレックス・リンスの食事事情

モンスターエナジー・ヤマハMotoGPチームのファビオ・クアルタラロとアレックス・リンスに、レースウイーク中の食事管理や好きな食べ物、嫌いな食べ物などを聞いた。それぞれに目的は違うけれど、レースウイーク中に「食べる」と二人が答えたものは……、アイスクリーム!

Q.レースウイーク中、コンディション維持のために避けている食べ物や控えているものはありますか?

ファビオ・クアルタラロ(以下、クアルタラロ):

油を使ったもの、ピザとかバーガーとか、そういう類のものは全部避けているよ。でも、レースウイーク中に少しアイスクリームを食べるのは好き。リラックスできるからね。

アレックス・リンス(以下、リンス):

かなり厳しい食事制限をしていて、避けている食べ物はいくつかある。気分が悪くならないようにとか、胃のコンディションを完璧に保つためだったりするんだ。

Q.レースウイーク以外でも、ダイエットをしていたり、食事制限はありますか?

クアルタラロ:

そうだね。トレーニングにもよるけれど、食事制限はしているよ。専属の栄養士が全部準備してくれているんだ。

リンス:

もちろん。レースウイークでもそれ以外でも、プラントベース(植物由来)の食事をしているんだ。体をしっかり100%のコンディションに保つのに役立っているよ。

Q.本当は好きなのに、レースやトレーニングのために食べないようにしている食べ物はありますか?

クアルタラロ:

ピザとかバーガーとか、そういうものは食べても週に1回くらいで、毎日は食べないようにしてる。

リンス:

僕は本当にいろいろものを食べるのが好きなんだ。食べること自体が大好き。だからピザは大好物なんだけど、レースウイークは100%避けているよ。

でも、例えばスプリントレースのあとや、とても大きな負荷がかかった土曜日などは、カロリーを消費しすぎていることもある。そんなときはデザートにバニラアイスを食べるんだ。

Q.パーソナル栄養士など、栄養管理を手伝ってくれている人はいますか?

クアルタラロ:

いるよ。

リンス:

栄養士がいて、食事管理をサポートしてくれているんだ。何か質問があるときは、いつでも電話で相談できる。だから、すごく助けてもらっているよ。

Q.レース前に通常は何を食べますか? また、レースの何時間前に食べますか?

クアルタラロ:

レースの2時間前に食べる。だいたい炭水化物が7割くらいで、ライスとかパスタ、それにチキンを合わせる感じかな。

リンス:

だいたいレースの2時間前に、ライスと、トマトと卵を食べる。

Q.ヤマハのホスピタリティで提供される料理の中で、一番好きなものは何ですか?

クアルタラロ:

タルタルステーキだね(生の牛肉を細かく刻んで生の卵黄やピクルス、生の玉ねぎのみじん切りが添えられているもの)。

リンス:

選ぶのが難しい。ほんとに難しいよ! だって料理がすごく美味しいからね。でも、よく出てくるオーブンで焼いたスイートポテトは最高に美味しいんだ。

Q.ホスピタリティのシェフに特別な食事の要望はしていますか?

クアルタラロ:

栄養士が1週間分の食事プランを準備してくれているよ。

リンス:

僕ではなくて栄養士がシェフと直接やり取りしてくれて、食事内容を調整してくれるんだ。

Q.あなたの国の伝統的な料理で、一番好きなものは何ですか?

クアルタラロ:

ヌテラ・クレープ!

リンス:

トルティージャ・デ・パタタス(スペイン風オムレツ)。

Q.もしあれば、好きな日本の食べ物を教えてください。

クアルタラロ:

大トロのニギリ(握り寿司)が大好き。

リンス:

あるよ! 甘い卵焼きが大好きなんだ! ダテマキタマゴっていうのかな。(※お寿司屋さんの甘い卵焼きなどを指しているのだと思われます)

Q.食べられないものや、食べたくないものはありますか?

クアルタラロ:

ないね。でも、辛いものは好きだけど、辛すぎるのはだめかな。

リンス:

嫌いなものの一つはナスだね。

Q.料理をすることはありますか? もし料理をするなら、あなたの得意料理は何ですか?

クアルタラロ:

チキン&ライスを作るよ。あとはアボカドのパスタ、ニョッキ。だいたいそういうのを作っているんだ。

リンス:

家では……、そんなに料理はしなかったんだ。必要ならもちろん作れるし、問題ないんだけどね。でも実際にはあまり料理はしなかったよ。奥さんと一緒に過ごす時間を優先したかったから。やろうと思えば何でもできるんだけど、あえてしないって感じかな。

  木曜日のランチ風景。クアルタラロとリンスはそれぞれのペースで食事をとっていた©Eri Ito

  木曜日のランチ風景。クアルタラロとリンスはそれぞれのペースで食事をとっていた©Eri Ito

  木曜日はゲストはいないので、まだ人は少なめ©Eri Ito

  木曜日はゲストはいないので、まだ人は少なめ©Eri Ito

木曜日、リンスは何を食べる……?©Eri Ito

木曜日、リンスは何を食べる……?©Eri Ito

インタビュー:ウィリアム・ファーヴェロさん

©Eri Ito

©Eri Ito

ヤマハのホスピタリティについてお話を伺ったのは、ヤマハ・モーター・レーシングのマーケティング&コミュニケーション部門マネージャー、ウィリアム・ファーヴェロさんだ。21年前にヤマハに入社してマーケティング&コミュニケーション部門のマネージャーを務め、10年前にはさらにホスピタリティとそのスタッフ責任者となった。

ホスピタリティはMotoGPの表舞台にあるものではない。けれど、厳しい週末の中で、美味しい食事、和やかに人と話せる場所は、ライダーやスタッフにとってどれほど大事だろう。豪華なホスピタリティは、その存在感だけではなく、役割としても大きなものを担っている。

Q.

ヤマハのホスピタリティの特徴を教えてください。

A.

このホスピタリティで私たちが気に入っているのは「オープンスペースであること」です。私たちは環境をオープンに保ちたいと思っているのです。スポンサーやゲスト、ライダー、そしてスタッフが一緒に過ごせる場所です。

もう一つ重要な点があります。このホスピタリティのデザインは、ヨーロッパにあるすべてのヤマハのディーラーのデザインの基本的なインスピレーションになっているのです。ですから、ヨーロッパのヤマハディーラーを訪れれば、そのデザインがこのホスピタリティととてもよく似ていることがわかるでしょう。このデザインは、ヤマハ・モーター・レーシングの本拠地イタリア・ジェルノ・ディ・レスモの本社から生まれました。

また、このホスピタリティはとても効率的です。最大で同時に70名のゲストを受け入れることができます。加えて、いくつものオフィス機能も備えています。

Q.

このホスピタリティを建てるのに、どれほどの時間がかかりますか?

A.

現状では、このホスピタリティを建てるのにおよそ1日半、解体にはおよそ1日かかります。

このホスピタリティの“弱点”の一つですね。私たちがこのホスピタリティを導入したのは2016年で、開発に着手したのはさらにその前の2014年なので、テクノロジーとしてはやや古いのです。私たちはすでに新しいホスピタリティに取り組んでいます。おそらく2027年にお披露目できるでしょう。

Q.

ホスピタリティに何台のトラックが必要ですか?

A.

ホスピタリティを構成しているのは3台のトラックです。そこに予備のトラックが2台加わるので、合計で5台になります。オフィスやキッチンの機能を備えたトラックがあり、さらにサーキットに駐車されるサポート用の2台が加わって、合計5台というわけです。

私たちにはホスピタリティ用が5台、チーム用が2台、コーポレートエンジニア用が1台、そしてエンジン部門用が1台、合計で9台のトラックがありますが、オフシーズンはその9台すべて、イタリアのジェルノ・ディ・レスモにあるヤマハ・モーター・レーシング本部に置かれています。

Q.

レースウイークには何名のゲストが訪れますか?

A.

レースによって異なりますが、多いのはイタリアのミサノやムジェロ、そしてスペインのバルセロナ、バレンシア、ヘレスなどですね。特に忙しい週末では、最大で250名のゲストを受け入れています。日本GPではコーポレート・ゲストやヤマハ発動機の同僚など、150名ほどのゲストを受け入れています。

Q.

提供する料理はどんなものですか?

A.

金曜日から日曜日、朝食とランチ、ディナーを提供します。木曜日の提供はスタッフ向けのみです。

常にビュッフェスタイルで、2種類の主食と2種類の主菜から選ぶことができます。例えば、主食ではパスタかラザニアを、主菜ではフィレ肉か魚料理を選ぶ、といった具合です。さらに、野菜や前菜などを揃えたビュッフェも用意しています。

Q.

白米も並んでいましたね。

A.

ええ、もちろん。私たちは常にミックスするようにしています。(ホスピタリティの)スタッフは全員イタリア人ですが、料理はイタリアンだけではなく、インターナショナルです。野菜を中心に、魚料理やパスタ、ライス、カレーなど、様々な料理を揃えています。

白米も並んでいた!©Eri Ito

白米も並んでいた!©Eri Ito

Q.

これまでにどのような日本食が提供されてきたのですか?

A.

寿司や刺身、天ぷら、それに味噌汁……それから、スタッフがラーメンにも挑戦したことがありました! なかなかよくできていましたよ。

時にはメキシコ料理、アメリカ料理、日本料理、あるいはイタリア料理──例えばピアディーナなど──を出すこともあります。国際的なお客様がいらっしゃるので、料理も国際的にバリエーションを持たせたいのです。

うちのホスピタリティのスタッフは本当に優秀です。私は、彼らがこのパドックで一番だと思っています。

ホスピタリティのマネジメントは決して簡単なことではありません。私たちの仕事は“思い出をつくること”だからです。人々が家に帰ったとき、友人にこう話すでしょう。「ミサノに行って、ヤマハのホスピタリティに招かれて、美味しい料理を食べて、とても素晴らしい時間を過ごしたよ」と。

私たちの目的、使命は、ゲストがMotoGP観戦を通じていい思い出をつくれるようにすることです。そのために、朝から夕方に帰るまで、ゲストを幸せにすることに全力を尽くしています。これは非常に大きな責任であり、大変な仕事なんですよ。

  カフェスペース©Eri Ito

  カフェスペース©Eri Ito

  きっちりとテーブルセットされている©Eri Ito

  きっちりとテーブルセットされている©Eri Ito

オーストリアGPの翌週はハンガリーGPで連戦だったので、日曜日は早いうちからホスピタリティの解体が始まっていた©Eri Ito

オーストリアGPの翌週はハンガリーGPで連戦だったので、日曜日は早いうちからホスピタリティの解体が始まっていた©Eri Ito

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