MotoGPの“裏側”を訪ねて|ホンダの新ホスピタリティに潜入。ミル&マリーニのごはん事情を聞く

MotoGPチェコGPで取材した、ホンダのホスピタリティの記事です。なかなか見られないホスピタリティ内部の写真を、ライダーたちへの取材含めてご紹介します。
伊藤英里 2025.07.31
誰でも

MotoGPの現場の、普段はなかなか見られない部分をお届けする「MotoGPの“裏側”を訪ねて」シリーズ。第2弾はホンダのホスピタリティをご紹介する。MotoGP第12戦チェコGPで取材したホンダのホスピタリティを、ライダーの食事事情、ホスピタリティ・マネージャーのインタビューとともにどうぞ。

今年新しくなったホンダのホスピタリティ

ホスピタリティとは、MotoGPのレースウイーク中にパドックに建てられる、各メーカー、チームの簡易施設のことである。レースウイーク中、チームのスタッフやライダーが食事をしたり、ミーティングをしたり、ゲストを迎えるのに使用される。一見すると立派な建物のようだが、全て移動式。レースが終われば解体されて、次のサーキットへ向かい、またそのサーキットで設営される。

今回取材したホンダのホスピタリティは、今年、新しくなった。こうしたホスピタリティは基本的にヨーロッパのMotoGPで展開されるので、ヨーロッパラウンド幕開けとなったスペインGPでお披露目されたのである。

2025年に新しくなったホンダのホスピタリティ©Eri Ito

2025年に新しくなったホンダのホスピタリティ©Eri Ito

ちなみにこちらが2024年までのホスピタリティ©Eri Ito

ちなみにこちらが2024年までのホスピタリティ©Eri Ito

ホンダのホスピタリティの場合、Moto2、Moto3クラスの(イデミツ・)ホンダ・チームアジアのライダーやスタッフも利用する。ちょうど取材をしていたランチタイムには、古里太陽をはじめとしたチームアジアの面々が食事をしていた。

今回、ランチタイムの写真を撮らせていただいたのは木曜日だったので、ライダーはチームと一緒に談笑しながら食事をしていた。ただ、ジョアン・ミルなどは金曜日以降、自分のモーターホーム(寝泊まりができる設備を備えたトラック。大型キャンピングカーのようなもの)に食事をデリバリーしてもらってレースに集中するそうだ。

ミルはまずはサラダから……©Eri Ito

ミルはまずはサラダから……©Eri Ito

チームと食事をともにする。木曜日だからか、まだ和やかな雰囲気©Eri Ito

チームと食事をともにする。木曜日だからか、まだ和やかな雰囲気©Eri Ito

こちらはマリーニチーム。マリーニはしっかりカメラ目線をくれて、撮り終わったあとも会釈してくれた©Eri Ito

こちらはマリーニチーム。マリーニはしっかりカメラ目線をくれて、撮り終わったあとも会釈してくれた©Eri Ito

古里たちMoto2、Moto3チームは2階で食べていた。2階にも食事が並んでいる©Eri Ito

古里たちMoto2、Moto3チームは2階で食べていた。2階にも食事が並んでいる©Eri Ito

ここで提供されるのはブレックファスト、ランチ、ディナー。ただし、ブレックファストは本格的なものではなくて、クロワッサンとコーヒーのような軽食だ。ホンダのホスピタリティの食事はスペインのケータリング業者によるものなので、主な料理はスペイン料理とのこと。詳しい料理の内容は、下部のホスピタリティ・マネージャーのインタビューをご覧いただければと思う。

今回ごちそうになったランチタイムには、ビュッフェ形式で様々な料理が並ぶ中に炊飯器で炊かれた白米があった。日本人スタッフもいるからだろう。「やはりごはんがあるとうれしい」と、料理を取っていた日本人スタッフの方もおっしゃっていた。海外生活が長いと食事のストレスが響いてくるというもの。日本人スタッフのいるホンダのホスピタリティならではのラインアップかもしれない。

サラダのラインアップが豊富。フレッシュな野菜が食べられるのは大事©Eri Ito

サラダのラインアップが豊富。フレッシュな野菜が食べられるのは大事©Eri Ito

盛り付けも美しいサラダたち©Eri Ito

盛り付けも美しいサラダたち©Eri Ito

パンコーナー。このほかに白米もあった©Eri Ito

パンコーナー。このほかに白米もあった©Eri Ito

パスタとチキンブレスト©Eri Ito

パスタとチキンブレスト©Eri Ito

トマトパスタもおいしそう©Eri Ito

トマトパスタもおいしそう©Eri Ito

わたしもランチをお招きいただいた。ごはんがあるのは本当にうれしい。チキンブレストは柔らかくて絶品!©Eri Ito

わたしもランチをお招きいただいた。ごはんがあるのは本当にうれしい。チキンブレストは柔らかくて絶品!©Eri Ito

Q&A:ジョアン・ミルとルカ・マリーニの食事事情

ホンダHRCカストロールのライダー、ジョアン・ミルとルカ・マリーニに、それぞれレースウイーク中の食事管理や好きな食べ物、嫌いな食べ物などを聞いた。食事という一面からも、MotoGPライダーというアスリートが、いかに日々節制をしてレースに向けて準備をしているのかがわかる。

Q.レースウイーク中、コンディション維持のために避けている食べ物や控えているものはありますか?

ジョアン・ミル(以下、ミル):

レースウイーク中は、やっぱりルーティンを守るのが大事なんだ。だから、だいたい同じ時間に、同じようなものを食べるようにしているよ。重たいものとか、変わったものは避ける。一番大事なのは「体にちゃんとエネルギーを入れること」なんだよね。

ルカ・マリーニ(マリーニ):

通常、よりシンプルな食事を心掛けてる。肉と、ごはんやパスタなどだね。もちろん、レースウイーク中は、食べ物で挑戦したり、胃に重いものを食べたりするのにはいいタイミングじゃない。ホスピタリティでは何でも作ってもらえるので便利だし、体調を崩すリスクも少ないので安心だよね。

Q.レースウイーク以外でも、ダイエットをしていたり、食事制限はありますか?

ミル:

うん、レースのないときでも、食事もトレーニングもかなり厳しく管理しているよ。MotoGPで戦うには、すべてを懸けなければならないんだ。

マリーニ:

もちろん、ちゃんとした食生活を保つのは本当に大事だよね。僕たちはアスリートだから、常に100%のコンディションでいないといけない。レースウイークと同じくらい、レースとレースの合間のトレーニングも重要なんだ。

レース中はバイクに乗るけれど、家にいるときはジムでのトレーニングがメイン。食事についてリラックスできるのは冬のオフシーズンの最初の数週間くらい。それでもなるべく意識は切らさないようにしているよ。

Q.本当は好きなのに、レースやトレーニングのために食べないようにしている食べ物はありますか?

ミル:

じつは、もしMotoGPライダーじゃなかったとしても、食生活はそんなに変わらないと思う。重たい食べ物はあんまり好きじゃなくて、グリルした野菜とかお肉が好きなんだよね。

マリーニ:

そりゃあ、食べたいものはたくさんあるよ! たくさん食べたくなるときもあるし、甘いものが欲しくなることもある。でも、金曜の午後(プラクティス)、Q1とQ2を分ける10番手と11番手の差が0.1秒だったりする世界だからね。その0.1秒をどうにかするために、できることは全部やらなきゃいけない。でもまあ、その分、食べられたときの喜びは大きいよ。

Q.パーソナル栄養士など、栄養管理を手伝ってくれている人はいますか?

ミル:

うん、僕のチームに栄養面をサポートしてくれる人がいるよ。その人は他のアスリートとも仕事していて、特にサイクリストを多く担当しているんだ。

マリーニ:

パーソナルチームの中に栄養のアドバイスをしてくれる人たちがいるよ。バイクと同じで、体に入れるものもちゃんと「正しい燃料」である必要があるんだ。MotoGPのレベルってすごく高いから、すべての要素をちゃんと考えて、一つ一つで最大限を目指さなくちゃいけないんだよ。

Q.レース前に通常は何を食べますか? また、レースの何時間前に食べますか?

ミル:

ウォームアップの前に、チキンとライスとか、オムレツを食べる。最低でも2時間前には食べておかないといけないんだけど、イベントなどがあるとタイミングが難しいときもあるんだよね。

マリーニ:

レース前に食べるのは軽いものだよ。チキンとライスとかね。レースの少なくとも2時間前には食べておかないと、胃に残っちゃって逆にエネルギーにならないんだ。スタート直前には、マラソンやサイクリングのときに摂取するようなゼリーとかを摂るライダーもいるよ。

Q.ホンダのホスピタリティで提供される料理の中で、一番好きなものは何ですか?

ミル:

今年はホスピタリティがすごくレベルアップしたから、いろんな料理を楽しめるようになったよ。

マリーニ:

普段はビュッフェスタイルで、毎日メニューが変わるから「これが定番!」っていう料理はそんなにないんだ。でも、ステーキは好き。たまに自分の好みに焼いてくれる特別コーナーができるんだけど、それがすごく美味しいんだよね。

Q.ホスピタリティのシェフに特別な食事の要望はしていますか?

ミル:

うん、朝は朝食を作ってもらっているよ。夜はビュッフェの内容によるけど、チキンやビーフをお願いすることもあるね。

マリーニ:

普段はなるべくビュッフェから食べるようにしているけど、軽めのものが欲しいときとか、違う時間に食事が必要なときもある。でも、シェフたちは本当に優秀で、いつも柔軟に対応してくれるんだよ。

Q.あなたの国の伝統的な料理で、一番好きなものは何ですか?

ミル(スペイン):

エンサイマダっていう、マヨルカの名物がすごく好きなんだ。甘いお菓子だからあんまり頻繁には食べないけれど、特別なときにはいいよね。

マリーニ(イタリア):

カルボナーラはいつも食べたくなるんだけど、気をつけなきゃいけない料理なんだ。食べやすいんだけど、食事管理にはけっこう影響が出るからね。

Q.もしあれば、好きな日本の食べ物を教えてください。

ミル:

基本的に日本食はだいたい好きだよ。食べ物にそこまでうるさいほうじゃないし、ちゃんと美味しければOK。ラーメンとかスシとか、そういうのはどれも楽しめるね。

マリーニ:

日本食は本当に好き。ホンダにいるから、それはラッキーだよね! 特にスシが好きで、日本でイベントがあるとき美味しいお店に行くようにしているよ。

今では多くの人が日本食の魅力に気づいて、いろいろな料理にチャレンジするようになってきたと思う。僕が住んでいるイタリアの街にも、すごく美味しい日本食レストランがいくつかあって、よく行っているんだ。もちろん、本場のほうが断然いいけどね!

Q.食べられないものや、食べたくないものはありますか?

ミル:

辛い食べ物はなるべく避けるようにしているね。

マリーニ:

辛い食べ物はちょっとね。インドネシア、マレーシア、タイとか、あのあたりは特に気をつけないと! チームの中には、すごく辛いものを食べてちょっとしたショーみたいに盛り上がるやつもいるけど、僕はあんまり楽しくないかなあ。それに、辛いものって胃にくることもあるから、レースウイークにはちょっと避けたいんだよね! でも、時間があるときなら、地元の料理を試してみるのは好きだよ。

Q.自炊をすることはありますか? もし自炊をするなら、あなたの得意料理は何ですか?

ミル:

家ではバーベキューをやるのが好きなんだ。マヨルカの家で、ステーキとか魚を焼いて食べるのって、最高だよ!

マリーニ:

自分で料理もできるし、モーターホームの中で作ることもあるよ。“これ”っていう得意料理があるわけじゃないけど、新しい料理に挑戦するのが好きなんだ。ただ、シーズンのカレンダーがハードだから、ほんとはもっと料理したり試したりしたいのに、なかなか時間がなくてね。冬になったら、たくさん作れるといいな!

インタビュー:ホスピタリティ・マネージャーのマリア・コレッキアさん

ホスピタリティを整え、管理、マネジメントするホスピタリティ・マネージャーのマリア・コレッキアさん。2024年までは当時佐々木歩夢が所属していたヤマハVR46マスターキャンプ・チームのプレスオフィサーをしていた。話を聞くと、MotoGPパドックではホスピタリティの仕事から始まったのだそうだから、まったく意外な転職というわけではないのかもしれない。笑顔がチャーミングで仕事の早いマリアには、これまでにわたしもとてもお世話になっている。

ホスピタリティ・マネージャーのマリア・コレッキアさん©Eri Ito

ホスピタリティ・マネージャーのマリア・コレッキアさん©Eri Ito

Q.

このホスピタリティは、今年新しくなったんですよね?

A.

ええ、まさにその通りです。今年のヘレスでこのホスピタリティを初めてお披露目しました。他のパドックのホスピタリティとはまったく異なり、より中立的でエレガントなコンセプトとなっています。居心地の良い空間で、ゲストの方々、チームメンバー、そしてスポンサーの皆さんからも非常に高く評価されています。

Q.

このホスピタリティに、トレーラーは何台が使用されているのですか?

A.

8台のトレーラーです。1台はキッチンです。1台はオフィスのトレーラーで、それは2階建て構造になっています。下の階にはオフィスが二つと、収納スペースがあります。上の階にはとても大きなミーティングルームと、マネジメント・ミーティングルームがあります。あとの6台はサポートトラックで、外側の構造物やホスピタリティ内の備品などすべて、そこに保管しています。

Q.

ホスピタリティの設営には、どのくらい時間がかかるのですか?

A.

設営にはおよそ3日かかり、撤収には1日半ほどかかります。ご存じの通り、今シーズンは連戦のグランプリが多いため、スタッフは次の週のGPに向けてホスピタリティを撤収し、再び設営するために夜通し作業をしています。

日曜は、午後2時ごろから解体作業を始めます。ちょうどレース中くらいの時間ですね。ケータリングはその時点ですべてのサービスを終了します。そして、組み立てと解体専任の別チームがいて、そのチームが次のグランプリが行われるサーキットまでトラックを運転します。今回も月曜の夜には現地に到着し、すぐに再び設営作業を開始しました。

Q.

ホスピタリティで提供されるメニューは?

A.

シェフが4人いて、提供する料理も多彩です。ランチでは、温かい料理として、基本的にホワイトパスタとチキンブレストが用意されます。それに加えて、もう一品、パスタやリゾット、ニョッキなど、そのときによって違う料理が提供されます。

メインディッシュとしては、肉料理が1品、魚料理が1品。必ず両方そろえています。デザートのセレクションもとても充実していますし、サラダバーもあります。サラダバーでは、普通のグリーンサラダやトマト、フレッシュな野菜類など様々なサラダが用意されています。ここでは本当にちゃんとした食事ができますよ。

ヨーロッパ以外の地域でも、ここで提供しているものと同じサービスを提供できるようにしています。ホスピタリティの設備は場所によって大きく異なりますが、ケータリングの内容はいつも同じです。世界中どこでもベストを尽くすようにしています。

ゲストは通常で30名、多いときは80~100名ほど。2階も含めて迎えられるだけのスペースを設けている©Eri Ito

ゲストは通常で30名、多いときは80~100名ほど。2階も含めて迎えられるだけのスペースを設けている©Eri Ito

1階の一角にはソファがあった©Eri Ito

1階の一角にはソファがあった©Eri Ito

中央にあるバーカウンター。お酒のほか、コーヒーが飲める。ここで様々な人が談笑していた©Eri Ito

中央にあるバーカウンター。お酒のほか、コーヒーが飲める。ここで様々な人が談笑していた©Eri Ito

ホスピタリティには必須のコーヒーマシン。ホスピタリティに行くと「コーヒー飲む?」と必ず聞いてもらえる(わたしはコーヒーが飲めないので、飲んだことはない)©Eri Ito

ホスピタリティには必須のコーヒーマシン。ホスピタリティに行くと「コーヒー飲む?」と必ず聞いてもらえる(わたしはコーヒーが飲めないので、飲んだことはない)©Eri Ito

奥の階段で2階に上がる©Eri Ito

奥の階段で2階に上がる©Eri Ito

2階フロアも広々©Eri Ito

2階フロアも広々©Eri Ito

チェコGP日曜日の夜に通りがかると、すでに解体がここまで進んでいた©Eri Ito

チェコGP日曜日の夜に通りがかると、すでに解体がここまで進んでいた©Eri Ito

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