MotoGP第17戦日本GP|母国で決勝欠場の小椋藍、それでも示した存在感

現地で取材したMotoGP日本GPから、小椋藍選手の記事を書きました。
伊藤英里 2025.09.29
誰でも

もてぎで迎えた母国グランプリ。小椋藍はサンマリノGPで負った右手の負傷を抱えながらもスプリント9位と健闘した。しかし状態の悪化により、日曜の決勝レースを欠場することになった。

怪我を抱えてのライディング

小椋藍は前戦サンマリノGP決勝レースで転倒を喫し、右手と左足のかかとを負傷した。この怪我により、サンマリノGP翌日にミサノ・ワールド・サーキット・マルコ・シモンチェリで行われた公式テストの走行を見送っている。

日本GP木曜日の囲み取材で怪我の状況について確認したところ、右手の甲2か所にひびが入っており、左足のかかとについては、バイクの操作に問題はないということだった。

金曜日は痛み止めを使用して走行し、プラクティスで14番手。といっても、この日はタイム差がかなり小さく、トップから14番手の小椋まで、わずか0.6秒ほどという状況だった。これを踏まえれば、タイムとしては悪くないと言えるだろう。

土曜日のQ1では、最初のコースインで1分43秒429を記録する。最後のアタックでさらにタイムを伸ばそうかというところだったが、後半のセクターで転倒者発生により黄旗が提示され、黄旗提示中に小椋がこの区間を通過したためにこの周のラップタイムはキャンセルとなった。小椋はQ1を3番手で終えた。

13番手から挑んだ12周のスプリントレースでは、レース後半にアレックス・マルケスをかわして9位でゴールを果たしている。これが、土曜日までの流れである。

もちろん、右手はいつもとまったく同じというわけにはいかない。金曜日よりも走行を重ねた土曜日のほうが、右手の状態はよくなかった。「(痛いのは)変わらないから」と、土曜日は痛み止めも飲まなかった。

といっても、ライダーは置かれた状況で全力を尽くすほかない。それは、怪我を負っているとしても同じことなのだ。金曜日は、午前から午後にかけて、「ライディングの変更」によって前進があったという。タイムを見ると、プラクティスでは1分43秒784を記録し、土曜日のQ1での有効タイムは1分43秒429。0.3秒縮めている。

小椋は2024年のオーストリアGPでの転倒で、右手の甲を骨折している。今回の怪我を抱えながらの走行は、昨年の負傷の経験が生きたところがあるのだろうか。

土曜日の囲み取材でそう尋ねると、小椋は「怪我を経て、ライディングの引き出しを得たかというと、そうでもないかなと思います。もちろん、怪我をかばって乗る、といったことはありますが、(そういう状況では)ほんとにその場、その場の処置しかできないんです」と答えた。

「今回も、2か所(5コーナーとビクトリーコーナー)、どうにもならないところがあるんです。そこがなければいいんですが……、仕方がないですね」

「(金曜日、午前から午後にかけて変更した)ライディングというのは、怪我は関係なくて、走りの面でのことですね」

予選の戦略についても話を聞いた。

最後のアタックラップが黄旗区間の通過によってキャンセルとなったが、これは走行中のライダーがコントロールできるものではなく、小椋も「いる場所が悪かったですね」と語っていた。とはいえ、アタックのタイミングなど、ある程度の戦略を立てることはできる。例えば、通常、より激しいタイムアタック合戦となるのはセッションの終盤であり、当然、転倒が多くなるのも終盤だ。今回、事前のプランニングはあったのだろうか?

「そこまでしていないですね。(今は)そういう段階ではないかな、と思っています」

「今は予選も置かれた状況で頑張る、という感じです。もう少し上位で戦えるようになったら、そういうレースウイークの組み立てなど、戦略的にうまくやり始めると思うんですけどね。今回は特に、そうした戦略はなかったです」

この言葉は、MotoGPクラスのルーキーである小椋にとって、母国・日本GPもまた、「MotoGPマシンでの初走行」であることを思い出させる。そして、右手の負傷があるとはいえ、小椋の取り組み方は、いつもと変わらない。──変わらないように見えた。いつものように、走行を重ねるたびに、確実に前進していたのだ。

決勝レースでも「初めてMotoGPマシンで走るもてぎ」という意味で、さらに前進した姿を見せるだろうと思われたのだが……、残念ながら、日曜日のMoto2クラス決勝レース後に、チームより小椋の欠場が発表された。以下はチームリリースの抜粋である。

「小椋は右手に支障を抱えた状態でもてぎを走行していました。しかし、この症状が悪化し、日本GPを欠場せざるを得ない段階に至りました。母国のファンの前で走れないことは本人にとって非常に残念ではありますが、コース上での安全および本人の健康を最優先としました。チームはMotoGPのメディカルチームとともに小椋の状態をモニタリングし、回復プロセスを支援しています。インドネシアGPへの参戦可否については、チームがマンダリカ到着後に回復状況を確認し、その結果に基づいて判断されます」

欠場となったことから小椋の日曜日の囲み取材がなかったため、本人への取材は行うことはできなかった。

残念ながら日曜日の決勝レースを欠場という形で日本GPを終えた小椋だが、初めてMotoGPマシンで走るもてぎで、土曜日のQ1ではQ2突破に迫り、スプリントレースでは9位。これは、十分に存在感を示すものだっただろう。

確かに海外のライダーよりももてぎの走行経験はある。今年についても、これまでに3、4回のスポーツ走行を実施してきたということだった。しかしそれは、バイクもタイヤも違う。「MotoGPマシンでのもてぎの経験値」ではない。MotoGPマシンを走らせることでしか得られないものがあるのである。

2026年の日本GPでは、さらに進化した小椋藍の姿を見せるだろう。そう思わせる小椋の日本GPだった。

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