MotoGP第12戦チェコGP|王者マルティン、初日のターゲットと喜び。走行前の胸中
ホルヘ・マルティンが戻ってきた。
マルティンは、開幕前マレーシア・セパンの公式テスト初日にハイサイドを喫して右手と左足を骨折し、その後のブリーラムを含む公式テストをキャンセルした。
さらに、開幕戦タイGP前、トレーニング中に左腕、左手首、左のかかとを骨折して手術を受けた。これらの怪我から復帰したカタールGP決勝レースでクラッシュし、複数の肋骨骨折と血気胸を負った。
度重なるひどい怪我から回復したマルティンが、前半戦締めくくりのレースとなるチェコGPで復帰した、というわけだ。
チェコGP初日はあいにくの天気で、フリープラクティス1はウエットコンディションから始まり、セッション終盤にスリックタイヤでの走行となったが、午後のプラクティスはひどい雨によってセッションがディレイになった。もちろん、コンディションはフルウエットだった。
そんな金曜日プラクティスを、マルティンは5番手で終えている。
初日を終えて、マルティンは囲み取材にやって来た。待ち構えていた各国のジャーナリスト、フォトグラファーがマルティンを取り囲む。彼らを前に、マルティンは走行後の心境を語った。
「朝は、ただ純粋に『戻ってこられてうれしい』って気持ちだったよ。またレースできるのがほんとにうれしかったし、この感覚をすごく恋しく思っていたからね。ただ、集中することだけを意識してた」
「だから、安定して走るのはけっこう難しかったんだ。長く離れていたから、やっぱりその“安定感”って部分が抜けていたね。でも、午後はすごく集中できていたし、すごく安定して走れたと思う」
そして、マルティンは「(プラクティスを)トップ5で終えたときは、正直ちょっと感情的になったよ。順位そのものより、『戻ってこられた』ことがうれしかったし、今日はほんとに自分でもよくやったと思えたからね。だから、すごく幸せな気持ちだった」と語った。
この日、感覚を取り戻すところからスタートしたというマルティンは、コーナーに入っていくときには、不安を感じることもあったという。「復帰することとQ2に行くこと」をターゲットとして取り組み、自らに課した目標をしっかりとクリアした。マルティンの言葉には、復帰への感慨と喜びがにじんでいた。
そんなマルティンに、「最初のセッション前、ナーバスになりましたか?」と尋ねた。FP1の走行前、目を閉じ、両手を顔の前で合わせていた様子が国際映像に映っていた。周りのライダーたちは、開幕戦からずっと“戦闘モード”で戦い続けている。怪我により戦線離脱を余儀なくされていたマルティンは、この日、その中にぽんと飛び込んでしのぎを削らなければならなかった。いかにチャンピオンといえど、ナーバスになったのではないか……?
しかし、マルティンは「うーん、ナーバスにはなっていなかったな」とあっさりと否定した。マルティンは、自分がやってきたこと、これまで準備してきたことを信じていた。そのバックボーンがあればこそ、復帰に対する緊張はなかった。
「この数か月、ソファでMotoGPを見続けて、フィジカル面でもメンタル面でも、しっかりトレーニングしてきたし、イメージトレーニングもしてた。僕は家にいながら“ここ”にいたんだ。これは僕にとって普通のことなんだ」
「今はたくさん周回を重ねてきた世界最高のライダーたちと一緒に走っているわけだから、もちろん自分のレースペースを取り戻して、勝負できるところまで戻るのは簡単じゃないよ。でも、今、僕はそこにフォーカスしてる。しっかり努力して、人としても成長して、今後、いい結果を出せるように頑張りたいと思っているんだ」
そう言って、マルティンは笑みを浮かべた。信念と期待を含んだ笑みのように見えた。

ホルヘ・マルティン©Eri Ito

©Aprilia Racing
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