2024年振り返り:ホンダの改善を読み解く

2024年シーズン最終戦ソリダリティGPでの現地取材と、リザルトを元に、ホンダの改善を見ていきます。(トップ画像©Honda)
伊藤英里_Eri Ito 2025.01.04
誰でも

2024年シーズン、ホンダライダーの評価

2024年シーズンのホンダについて、結果とライダーのコメントから振り返ってみよう。

チャンピオンシップとしては、チームランキングでは、インディペンデントチームのLCRホンダが11チーム中ランキング10位だった。ファクトリーチームであるレプソル・ホンダ・チームは、最下位のランキング11位である。

コンストラクターズランキングとしても、最下位のランキング5位だった。

ライダーとしてのベストリザルトは、ホンダ移籍初年度であるヨハン・ザルコのものだ。スプリントレースでは、インドネシアGPの8位。決勝レースでは、タイGPの8位がそれである。ザルコはホンダ最上位のランキング17位でシーズンを終えた。

ホンダの苦戦は続いていたが、現地で取材をしていてそれをひどく感じたことがある。誰が言いだしたのか、シーズン前半戦、レースであまりにも上位との差が大きく、ホンダライダーが下位を占めている状況を指して「ホンダ・カップ」と、囲み取材などで表現されていた。ジャーナリストも──軽いユーモアのつもりだろう──、ホンダのライダーにそう言っていたし、ホンダライダー自身が自嘲まじりにそう表現することもあった。「今日はホンダ・カップでトップになれた」と。

ただ、シーズンが終盤に近づくにつれて、次第に「ホンダ・カップ」と表現しなければならない状況は少しずつ改善しているように見えた。ザルコだけではなく、ジョアン・ミル、ルカ・マリーニ、中上貴晶の決勝レースにおける今季の自己ベストリザルトは、エミリア・ロマーニャGP以降に記録されている。

実際のところ、ライダーたちは、2024年シーズンのホンダマシンの改善についてどう考えているのだろうか。最終戦ソリダリティGP・オブ・バルセロナの決勝レース後、囲み取材でミル、マリーニ、ザルコ、中上に質問した。

なお、(伊藤による質問)という注釈がないものは、そのほかのジャーナリストによる質問である。また、この記事で触れているのは、あくまでも最終戦ソリダリティGP終了時点でライダーたちが2024年についてどう評価しているのか、という話であることも付け加えておく。

Q.(伊藤による質問)

「シーズン序盤からのバイクの改善をどう評価しますか?」

A.(ジョアン・ミル)

「シーズンの間、僕たちはものすごく改善してきたんだ。でも、問題は、バイブレーションのせいで、その改善が感じられなくなっているということなんだ。このバイブレーションが現れると、僕たちがしてきた全ての改善が隠れてしまうからだ」

ミルは土曜日の囲み取材でもバイブレーションについて言及していた。そのときはこのように語っている。

「セパンではバイブレーションの陰に隠れていたんだけど、ここではマシンの改善がいくつか見られたんだ。でも、ここ(バルセロナ-カタルーニャ・サーキット)では旋回のエリアにおいて、改善が見られたんだ。早めにマシンを起こせるようになったから、これが加速の改善につながっている。

グリップはよくないし、加速面において、エンジンはまだ改良の余地がある。でも、今週末、初めてトンネルの先に光が見え始めたんだ。彼ら(ホンダ)は、バイブレーションという問題を考えるのにかなり懸命に取り組まなければならない。バイブレーションが全てを左右する」

ミルは最終戦で改善の手ごたえを感じ、同時にバイブレーションが大きな問題であると考えていた。このバイブレーションはミルだけに起こっていた症状ではなく、土曜日の囲み取材で中上も同様のコメントをしていたものだ。

次に、2024年、ドゥカティからホンダに移籍してきたマリーニの話を確認しよう。

Q.

「開発やアップデートに取り組むホンダの姿勢に満足していますか?」

A.(ルカ・マリーニ)

「2024年、僕がファクトリーに行った時から大きく前進したと思うよ。多くの変化があった。来年(2025年)はもっと多くの変化があるだろう。それは僕にポジティブさを与えてくれる。新しいスタッフ、新しいエンジニアがどう働くのか楽しみだ。みんな、ホンダをトップに押し上げたいと思っているからね」

Q.

「今季(2024年)のレベルアップについて、満足度や不満度は?」

A.(ルカ・マリーニ)

「レースによっては、1周1.8秒も遅れていたところからスタートした。今は、1周につき1秒になった。まだ、道のりは長いよ。ドゥカティのレベルに到達するのは不可能かもしれない。でも、今の目標は全てのマニュファクチャラーを倒すことだ」

同じくドゥカティからホンダにやって来た、そしてホンダのベストリザルトを獲得したザルコはこう語っている。

Q.

「2024年シーズンのホンダの全体的な改善について、どのくらい満足していますか?」

A.(ヨハン・ザルコ)

「満足しているよ。何もないところから、今は得たものがあるんだ。シーズン序盤は他メーカーのバイクについていくことはできなかった。今は、戦えるようになっている。相手はトップライダーではないけどね。以前はたった3コーナーで彼らは離れて行ったんだ。だから、ポジティブだよ」

最後に、これがフル参戦ライダーとして最後のレースとなった中上にも、話を聞いた。

Q.(伊藤による質問)

「今季のホンダの改善をどう評価しますか?」

A.(中上貴晶)

「シーズン序盤から中盤は、ホンダが改善していたのかどうか、それを言葉にすることが非常に難しかったです。というのも、結果やラップタイムは、ほとんどのセッションで底のほうでしたからね。でも、シーズン終盤、残り5、6戦あたりから、だんだん速くなっているように感じました。ポジションは底の方ではなくトップ10に近づいていき、少なくとも、15番手以内にはいました。これは、シーズンの序盤には不可能だったことです

シーズン後半、HRCは“道”を見出したのだと思います。僕は、プッシュし続け、新しいものを見出したいと思っています。僕たちは、少し前進したと思います」

2023年と2024年シーズン、ホンダの各ライダーベストラップの比較

ホンダのライダーたちは、2024年シーズン、改善したと考えている。ここで、データを確認することにしよう。

以下は、2023年シーズンと、2024年シーズンのミルと中上のその週末における自己ベストラップの比較と、オールタイムラップ・レコードの比較表だ。2023年のタイムを更新した場合、2024年の記録が赤字になっている。ザルコとマリーニは、2023年はドゥカティ機を走らせていたため、比較から除外した。

2023年と2024年では、開催時期が異なるグランプリもある。また、コンディションは同じではなくタイヤも異なるため、正確に比較することはできないが、参考のデータとしたい。

ミルについては、アラゴンGP(2023年未開催)と最終戦ソリダリティGP(開催時期が大きく異なる)を除く18戦を比較対象としたとき、2024年シーズンは10戦で2023年シーズンの自己ベストを更新。一方、中上は12戦で更新している。全体の自己ベスト更新率で見るとミルは中上よりも低いが、ミルの場合、特にイギリスGP以降のシーズン後半戦で更新率が高い。シーズン後半戦では、比較対象の10戦中7戦で自己ベストを更新した。

ただ、オールタイムラップ・レコードは、18戦中(アラゴンGP、ソリダリティGPを除く)、16戦で更新されていることも確認できる。ほとんどのサーキットで、レコードがブレイクされたわけだ。

2023年と2024年シーズン、ホンダの各ライダーレースペースの比較

では、レースペースはどうだろうか。以下は、2023年シーズンのミル、中上のスプリントレース、決勝レースのトータルタイムと、2024年シーズンのそれを比較したものである。また、優勝ライダーと優勝ライダーのレースのトータルタイムも比較した。前年の各人の記録を更新した場合、2024年の記録が赤字になっている。

レースについては、2023年と2024年で周回数が異なったり、赤旗中断などもあるため、全てのレースを比較することは難しい。ただ、スプリントレースでの比較対象を16レースとしたとき(スペインGP、アラゴンGP、オーストラリアGP、ソリダリティGPを除外)、15レースで優勝者のトータルタイムが更新されている。

決勝レースでは、13レースを比較対象とした場合(カタールGP、スペインGP、カタルーニャGP、アラゴンGP、日本GP、マレーシアGP、ソリダリティGPを除外)9レースで、優勝者のトータルタイムが更新された。

ミルはスプリントレースでは6レースでトータルタイムを更新し、決勝レースでのトータルタイム更新はなかった。ミルはスプリントレースで6レース、決勝レースで8レースを欠場またはリタイアしている。この回数の多さが、トータルタイム更新を難しくした一つの理由だろう。

中上は、スプリントレースでは8レース、決勝レースでは7レースで、トータルタイムを更新している。

このように、2023年よりも一発のアタックという点でも、レースペースという点でも、タイムを見れば、確かにホンダは改善していた。ただ、レースのトータルタイムを確認するとわかる通り、ドゥカティの進化が大きかったのが、ホンダが苦しいままシーズンを戦っているように見えた要因の一つだと考えられる。

例えば、フランスGP決勝レースで、中上は2023年よりもトータルタイムを0.605秒短縮したが、トップとの差は、2023年に比べて13秒656も開いた。順位についても、トータルタイムがほぼ変わらないにもかかわらず、2023年は9位だったのが、2024年は14位という結果になっている。オーストリアGP決勝レースでも、中上はトータルタイムを8.148秒縮めているが、トップとの差は3.994秒拡大している。

ホンダが前年の己よりも改善したとしても、争うのはその年のライバルメーカーだ。ホンダが歩みを止めることがないドゥカティに追いつくためには、それ以上のスピードで改善しなければならない。

ただ、あくまでもホンダの中での前年比較、ライダーの最終戦後のコメント、そして「ホンダ・カップ」から抜け出したシーズン終盤戦を踏まえると、2023年シーズン終了時よりも悲観的な状況ではないのではないか、と見える。

2025年シーズンのホンダはどう進化するのか。現時点でそれを語る一つの手がかりになるのは、ソリダリティGP後、11月19日に行われた公式テストでの話になる。これについては、別の記事で触れたい。

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